女の子にモテたかっただけなのに

音楽をはじめたのは、カッコつけて女の子にモテたかったから。大多数の十代男子と全く同じ理由。深い音楽性とか、湧き上がる創作意欲とか、そういうのが最初からあるわけがない。(一部の天才はあるのかもしれないけど)

ただ、ちょっと時期が早かった。小学生で音楽をやって女の子にもてるのは割と難しい。軽音部もバンド仲間も存在しない年代。とりあえずブラスバンド部でドラムを叩いてみた。

ドラムが叩けると重宝されてバンドの誘いも多い。でも重宝されるってことは他の人はやりたがらないってことで、モテとは方向性が違うんだよね。やっぱり一番モテるのはボーカルなわけで。

ドラムが叩けたり他の楽器ができる人間をボーカルで誘ってくれるバンドなんてあるわけがない。かといって「俺がボーカルで新バンド作るからみんな集まれ」って言われて集まる人もいない。もう自分でバック演奏をやるしかない。

とりあえずギター、ベース、キーボード…等など全て演奏できるように練習する。演奏できたから終りじゃない。多重録音ができる機材を購入して、各楽器を揃えて、周辺機材やエフェクターも揃えて…お金は出て行くばかり。演奏技能だけでなく、音作りの知識、エンジニアリング、ミックスダウンやマスタリングのノウハウ等もたまっていく。

この時点で最初の「ちょろっと歌って女の子にモテる」という目標からかなり遠ざかってるんだけど、渦中にいる人間はなかなか冷静になれないわけで。

そのうち自動演奏させるためのシーケンサーの知識がコンピューターの知識に置き換わり、レコーディングのMTR多重録音もPCで行うようになる。

発信するのも大変だ。自分のホームページを作るためにhtmlやスタイルシートの知識が必要になり、販売サイトを作るのにJavaやPHPのプログラミングの知識やデータベースの技能が身につく。

さらにCDをつくる工程も複雑だ。まずはジャケット。写真がいる。撮ったら加工しないとね。画像ソフトの知識がいる。画像だけじゃダメで盤面プレスとジェケット印刷のためには割と難しいIllustratorの技能と印刷業界の知識が必要になった。ちなみにこの知識はポスターやフライヤーのデザインにも応用された。

CDを流通させるのもメンドクサイ。お店やAmazonで取り扱うためにはバーコードが必要になる。ということは商工会議所から流通システム開発センターへ、事業所登録して納税証明してGS1事業者コード(JAN企業コード)を取得する、という全く本筋と関係ないノウハウが身につく。

とどめに「プロモーションビデオ無いんですか?」と来たもんだ。作ればいいんだろ。動画ソフトの説明に書いてある専門用語が何一つわからない。物事を3Dで考えろっていわれても困る。作ってるうちになんだか楽しくなってきた。深入りに注意。

新しいアルバムが発売になり、制作と販売に関わる作業も一段落してしみじみと思う。どう考えても女の子にモテる方法はこうじゃない気がしてるんだけど。どの段階で間違ったんだろうな。本末転倒という言葉が頭に浮かぶ。