コートのポケットに入れておくべき本

この間まで半袖の夏服だったのに、気がつけば季節は10月。そろそろ冬用のコートを出して風に当てる時期になってきた。

愛用の黒のロングコート。「マトリックスみたいですね」と言われるのは慣れっこ。追加で「ピストル避けるの上手そうな服ですね」と言われたことさえある。言いたいことは何となく分かるが。

ただマトリックスはおろか(黒コート繋がりでいえば)ターミネーターが公開された頃、80年代中盤から冬は決まって黒のロングコートだった。最初は何かに影響されたのかもしれないけど、もう昔過ぎて憶えてない。

このコートのポケットにはずっと一冊の本が入っている。文庫版のランボーの詩集だ。

コート購入以前の中学生時代は学ランのポケットに入っていた。もちろん夏の間はカバンの中。毎年恒例で冬が近づくとこの本をコートのポケットに移動させる。そうして季節が変わるのを感じてきた。

自分が中学校の頃、今から30年前の薄めの文庫本って新品で180円とかだったよなぁ。ポケットの中で揉まれつづけてボロボロになり、活字がかすれて読めなくなると次の新品の本に代替わりする。堀口大學訳の「ランボー詩集」と小林秀雄訳の「地獄の季節/ランボオ」がほぼローテーション。

もう内容はなんとなく憶えている。実際に本を開く頻度も減る。劣化して代替わりするペースも遅くなってきた。でも未だにお守りのようにポケットに入っている。もう何冊目かは憶えてないけど今じゃ430円也。

こうやって書いてても「なんという中二病」「酷いナルシスト」「カッコつけマン」等と思わなくもない。うん、酷いな、このエピソード。

それでも冬枯れた公園のベンチに座ってページをめくると、初めて読んだ頃の、血液が沸騰するような気持ちが蘇ってくる。

自分の成分の数%はこの本からできている。これがいつかタブレットや電子書籍に置き換わっても、たぶん消えることはない。

ランボー詩集

ランボー詩集と地獄の季節