A君の東京進出
年下の友人のA君から、急な電話をもらった。「えーと、大田区
民になりました。」ウッ、と言葉に詰まった。数日前まで和歌山県
民だったはずだろ。彼はかなりクダラナイことでも電話をかけてよ
こすので、「こんな昼間に何の用だよ。」と少しうざったく思いな
がらとった電話は、とりあえず良い方に期待を裏切った。
「引っ越してくるの?」「いえ、もう引っ越しは終わりました。
」なんだよ。話がかみ合わないな。「仕事とか探すの?」「いえ、
仕事も見つかりました。」「バイトとか?」「いえ、正社員です。
」本人が言うには、もっと早く連絡したかったのだが、嵐のような
忙しさで(そりゃそうだ。引っ越しと転職だからな。)連絡するの
が遅れて申し訳ない、とのこと。なんと、もう出勤までしていると
言う。
しばらく前から、大田区にある、とある金属加工?メーカーに就
職したい、とは聞いていた。よくわかんないけど、テレビで見たん
だか、なんだかで一目ぼれしてしまったらしい。そのために専門学
校に通ったり、技術を磨いたりしていたようだ。
A君の性格を知る私からは、「そんなこといっても、いつも口だ
けじゃないか。」と思って一連の流れを聞いていた。だから、彼が
本当に夢の入り口に立っている事を聞いて、おめでたいと同時に疑
っていた自分が少し恥ずかしい気分だ。
夢は必ずかなう。そんな半端なバカみたいな行動を、この不況の
ご時世の中でかなえてしまえる人がいることに、すこし嬉しい気分
になった。