センスのない人間のオシャレ入門
よくジョークとして「服を買いに行く服がない」というネタを聞くけど、今時ネット通販が全盛で、それほど困ることもないとは思う。あくまでネタだ。普段着の話ならね。
ただ結構マトモな服を買おうと思ったら本当に困る。お高い物も多いので失敗したくないし、通販で良い物もあるんだろうけど何がいいのかわかりにくい、更に「高い服ほどサイズをきちんとしないとマズいことになる」のはどういうわけだ?
事の起こりは、靴を買いに行ったときの話。結局買わなかったんだけどね。探し回ることに疲れて、自分の足下を指さし店員に「こんなタイプの靴あります?」と聞いてみた。
自分では良くあるタイプのウエスタンブーツだと思っていたんだけど、店員は即座に「無い」と答えてきた。いやいや、べつにそっくり同じじゃなくていいんだけどさ。それでも無いという。
この先のトレンドや流行の話は、あくまで靴屋の店員が言った話なので真偽は保証しない。更に俺はこの話の中身自体に全く興味が無い。
店員によると今現在の世の中の靴はトンガリ靴か、まん丸靴の二種類「しかない」のだそうな。ホントかよ?なぜなら、その二種類が昨今の流行だからだ。それ以外の靴は流通していないのだそうな。
あまりに断定的に世界中の靴を熱く語る店員に、最初なにかのジョークや小話なのかと思ったんだけど、どうやら店員は本気だ。別に若造のチャラチャラした兄ちゃんじゃなく、いい大人にみえるんだけどな。
まぁ途中色々話はあったんだけど、結果として各種のスタンダードなタイプのブーツは絶滅して今後10年間は市場に出ないので、どうしても俺が普通のブーツを履きたいんなら数十万(笑)払ってオーダーするしかない、のだそうな。冗談のようだが、本当にこの通りのことを言われた。自信満々に。
何なんだろうなぁ。ちなみに「店長のこだわりショップ」的な店じゃなく普通の○○○マートだ。もちろん他の店に行ったら普通にウエスタンブーツもエンジニアブーツも置いてあった。
1.俺に対して何かイジワルをしたかった
2.下手すぎるセールストークの一種だった
3.その人には本当に世界がそういう風に見えている
どれだ?
「靴がとがってるのは我慢するとしても、反っくり返ってるのが気に入らない」とネタで言ったつもりだったのに、「それは反ってないと歩けないからですよ、次の一歩が出ないんです」と熱っぽく説明され、ついつい「じゃ、そもそも尖らなきゃいいんじゃね?」と言ったら「え?だって流行ってるんですよ?」と本気で心配そうな顔をされた。
と、ここまで靴屋の店員とのショートコントをダラダラ書いてきたのは、それが「オシャレ嫌いの人にとってのお洒落」の忠実な縮図になっているからだ。
洋服、靴、アクセサリー、バッグ等々。センスがある、こだわりがある、服に気をつかう。「何を身につけるか」という問題には幾つかの階層がある。これはレベルが高い低いという問題じゃない。ただ強制力の継承関係にはある。
A.
まず最初に服を着る根源的な目的レベルのレイヤー。寒い、暑い、調節しよう。無防備は怖い。急所が見えないようにしないとな。裸で歩くと捕まる。まぁ、最低限これくらいは守らないとね。
B.
次に自分の好みの階層。自分が好きな服を好きなように着る。色も形もデザインも着こなしも、好きなように。センスは関係ない。関係ないが、そこには「こだわり」がある。こだわらない、という名のこだわりも有りだ。
センスの良い悪いと無関係に、人間誰しも身につける物になにかしらのこだわりがある。たぶん「オシャレじゃない人」ほど、この段階に全力を注いでいる。服装のワガママだ。
C.
自分が相対する対象。相手に向けての意識階層。自分の目の前にいる人に好かれたい、少なくとも不快な思いをさせたくない、というレイヤー。ここで初めて他者が登場する。
自分の好みを多少殺してでも他者に迎合するかもしれない。逆に相手のことを一切考えないこともできる。「センスが無い」「オシャレ下手」な人は、うっかりすると忘れてしまいがちな階層だ。
D.
その「場」のことを考えているかどうか、というレイヤー。店のドレスコードだったり、集団のムードだったり。更に言えば、一人で街を歩いていて、その人混みを意識するかどうか。
オシャレ下手さんは、最初にマナーとか礼儀とかが頭に浮かぶ。この段階で「赤点をとらないように」と考えるのが関の山だ。ここで満点を目指すか不合格じゃなきゃいいのかの意識の持ちようが、真のオシャレさん?への重要課題なんじゃないかと思う。
E.
まだ先があった。「世間」とか「流行」とかを意識して服を選ぶかどうか、という階層。もちろん程度問題でもあるんだけどね。「さすがに絶対恥ずかしい」レベルの流行遅れが何度もリバイバルして再度OKになったりするもんで線引きが難しい。
ただ、非オシャレ民は完全に「世間や流行」のことなんて忘れている。というより、目の前にない世間という抽象的な存在に自分の服装が左右される、ということが思い浮かばないんだと思う。
と、ここまで勝手に五段階の階層を区切ってみた。本当に今適当に思いついただけなので、服飾やデザイン、文化史に詳しい人から総ツッコミかもしれないけど気にしない。
人が自分の服を選ぶ際の指針をどこに持つか、という話だけど、最初に言ったようにこの階層は決定権、強制力が上の階層から継承されている。決して横並びの並列選択肢ではない。
ただ全く逆の手順が起こらないかと言えばそうでもない。相手に合わせて「自分の好み」を修正する(我慢したり意見を曲げるのではなく)ことができたり、世間の流行に合わせて街に着ていく服を変えてみたり。
一段階上流にフィードバックできるのが普通の人、二段階以上のフィードバックを調整できるのがオシャレさん、と今勝手に定義してみた。してみただけだが。じゃ三段階以上は?
ここで靴屋の店員の話。尖っている靴が嫌いなのに「流行ってるんだから」履けと言われると大変困る。EからBへの大ジャンプだ。この時点で凄い拒否感が襲ってくる。素人の俺には難しい。
挙句の果てに「尖ってる靴が流行りだ」→「尖りすぎて歩けない」ここまででもEからAへの大逆流なんだけど、「歩けないなら尖った靴先を上に反らせばいい」→「トンガリ&上反り靴先が流行に」とE-A間の無限ループ。
本末転倒とかトートロジーとか、そういうことじゃないんだろうなぁ。これも俺のオシャレ力?が足りないから理解できないんだろう。
オレはようやく登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠いオシャレ坂をよ。