名刺
私の名刺には「音楽製作 ライター」と書かれている。曖昧な肩
書きだ。編集部に行っても、音楽の依頼を受けるときも、必ずもう
片方の業種について質問される。
しかも、写真付きだ。カッコヨク写っているやつ。フォトショッ
プってなんて便利なんだろう、と名刺に印刷する自分の顔写真を加
工しているときに気づいた。といっても、そんな大胆な訂正をした
わけではないが。
その名刺を、名刺入れごと近所のファミリーレストランで落とし
てしまった。今まで、たぶん「毎日、平日の昼頃、定まらない時間
に現れる職業不明のうさんくさい男」だったのだろう。しかし、次
の日、ニヤニヤしながら店員さんが名刺入れを差し出し、「すいま
せん、中を見ちゃいました」と言われた。
まぁ、こっちとしてはありがたい話なのだが、店の人にはどう思
われているのだろう。店で原稿を書いていたこともあるので、「謎
が解けた」と思われているのか、それとも単に「もっとうさんくさ
い男」に昇格しただけなのか。
とりあえず変わった点は、以前のように気味悪そうには対応され
なくなった。そしてなんだか観察されているようにさえ思える。た
だの私の自意識過剰かもしれないが、せめてライターと音楽製作の
どちらかだけにしておけば良かった、と、こんなとき後悔する。